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2025.04.20

脂質異常症の治療に使われる薬 | 薬物療法をいつから始めるかも解説

脂質異常症とは、LDLコレステロールや中性脂肪が基準値よりも高い状態、またはHDLコレステロールが低い状態です。放置していると、動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞などの深刻な疾患のリスクを高めます。

この記事では、脂質異常症の治療に使われる薬の種類や効果、薬物療法を開始するタイミングについて解説します。

脂質異常症に使われる治療薬(参考1)(参考2)

脂質異常症(高脂血症)の治療で一番大切なのは、食事や運動などの生活習慣の改善です。

しかし、次のような場合には、生活習慣の改善に加えて薬物療法が必要になることがあります。

  • 生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない場合
  • 既に心筋梗塞や脳梗塞などを経験したことがある場合
  • 糖尿病や高血圧など、他の危険因子を持っている場合
  • 遺伝的に脂質異常症になりやすい体質の場合(家族性高コレステロール血症など)

脂質異常症の治療薬は、主に次の2種類に分けられます。

1.コレステロール値を下げる薬:主に悪玉コレステロール(LDL)を減らすお薬

2.中性脂肪値を下げる薬:主に中性脂肪(トリグリセリド)を減らすお薬

下記で一つずつ紹介します。

コレステロール値を下げる薬

1.スタチン系薬(コレステロールの合成を抑える薬)

脂質異常症治療において、最初に選ばれる薬(第一選択薬)はスタチン製剤です。(参考1)スタチンは体内で肝臓でのコレステロール合成を抑え、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を下げる働きがあります。

具体的には、肝臓でコレステロールが作られなくなると、肝臓は不足分を補うために血液中のコレステロールを取り込むようになります。これにより、血液中の悪玉コレステロールが減少し、動脈硬化の予防にもつながるわけです。

スタチン系薬には強力なタイプ(ストロングスタチン)と標準タイプ(スタンダードスタチン)があります。(参考1)

ストロングスタチン(効果が高い)

  • アトルバスタチン(商品名:リピトールなど):1日1回5mg〜10mg
  • ロスバスタチン(商品名:クレストールなど):1日1回2.5mg〜5mg
  • ピタバスタチン(商品名:リバロなど):1日1回1mg〜4mg

スタンダードスタチン(効果が標準的)

  • シンバスタチン(商品名:リポバスなど):1日1回5mg〜20mg
  • プラバスタチン(商品名:メバロチンなど):1日1〜2回10mg〜0mg
  • フルバスタチン(商品名:ローコールなど):1日1回20mg〜0mg

それぞれの薬には先発品(新薬)とジェネリック医薬品(後発品)があり、薬の効果は同等です。(参考1)

スタチンの主な副作用には、筋肉痛、横紋筋融解症(重篤な筋肉の障害)、肝臓の機能障害、吐き気などがあります。特に高齢者が服用する際は、副作用に注意が必要です。(参考3)

2.小腸コレステロール吸収抑制薬(腸でのコレステロール吸収を防ぐ薬)

小腸コレステロール吸収抑制薬で代表的な薬剤はエゼチミブ(商品名:ゼチーア)です。(参考4)血液中のコレステロールには、肝臓で合成されるものと食事から小腸で吸収されるものがあります。エゼチミブは小腸でのコレステロールの吸収を選択的に阻害し、血液中の悪玉コレステロールを低下させます。

スタチンと一緒に使われることも多く、両方の薬を併用することで、コレステロールの「合成」と「吸収」の両方を抑え、より効果的にコレステロールをコントロールできます。副作用は比較的少なく、便秘や下痢などの胃腸症状がまれに見られる程度です。(参考4)

3.PCSK9阻害薬(新しいタイプのコレステロール低下薬)

PCSK9阻害薬は、PCSK9というタンパク質を阻害することで、肝臓がより多くの悪玉コレステロールを取り囲み、強力にコレステロールを低下させる働きがあります。(参考5)

代表的な薬剤はエボロクマブ(商品名:レパーサ)やアリロクマブ(商品名:プラルエント)で、スタチンで効果が十分でない場合や、家族性高コレステロール血症(遺伝的にコレステロールが高くなる病気)の治療に使われます。注射タイプの薬で、2週間〜1ヶ月に1回の皮下投与で済むのが特徴です。(参考5)

中性脂肪値を下げる薬

1.フィブラート系薬(中性脂肪を減らす薬)

クロフィブラートをはじめとするフィブラート系薬は、主に高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)の治療に用いられます。中性脂肪を低下させるとともに、善玉コレステロール(HDLコレステロール)を上昇させる働きもあります。(参考6)

代表的な薬剤は次の通りです。(参考6)

  • ペマフィブラート(商品名:パルモディア):1日2回 0.1~0.2mg
  • ベザフィブラート(商品名:ベザトールSR):1日2回 朝夕食後に計400mg
  • フェノフィブラート(商品名:トライコア、リピディル):1日1回 食後に106.6~160mg
  • クロフィブラート(商品名:ビノグラック):1日2~3回 計750~1500mg
  • クリノフィブラート(商品名:リポクリン):1日3回 計600mg

主な副作用としては、筋肉の障害(横紋筋融解症)があります。(参考6)特に、スタチンとの併用するとリスクが高まるため、注意が必要です。

2.EPA/DHA製剤(魚油由来の脂肪酸)

EPA(イコサペント酸エチル)やDHAは、魚の油に含まれる成分から作られた薬です。中性脂肪の合成を抑制したり、血液をサラサラにする作用があります。(参考7)(参考8)

  • イコサペント酸エチル(商品名:エパデール):1日2~3回 食後に計1800mg
  • オメガ-3脂肪酸エチル(商品名:ロトリガ):1日1回 食後に2g

食事で魚を多く摂取することでも中性脂肪を低下させる効果が期待できます(参考10)が、高トリグリセリド血症では薬として服用することがあります。

脂質異常症の薬物療法はいつから始める?

脂質異常症の薬物療法の開始時期は、個人のリスクに応じて判断されます。日本動脈硬化学会の「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」によると、リスクの高い順で下記のように分類されています。(参考9)

◎二次予防

心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患の既往があり、血液中の脂質の値が高い場合は二次予防として薬物療法をする必要があります。二次予防では、生活習慣の改善と同時に薬物療法を開始します。

  • LDLコレステロール目標値:100mg/dL未満(70mg/dL未満が望ましい)
  • Non-HDLコレステロール目標値:130mg/dL未満(100mg/dL未満が望ましい)
  • トリグリセライド(中性脂肪)目標値:150mg/dL未満
  • HDLコレステロール目標値:40mg/dL以上

◎一次予防

上記以外はリスク状態に応じて一次予防が必要になるケースがあります。一次予防は、まず生活習慣の改善を行った上で、効果が不十分な場合に薬物療法を検討する段階です。リスク状態には3つの区分があります。

・高リスク

血液中の脂質の値が高く、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)のいずれかがある場合は高リスクと判断されます。

  • LDLコレステロール目標値:120mg/dL未満
  • Non-HDLコレステロール目標値:150mg/dL未満
  • トリグリセライド(中性脂肪)目標値:150mg/dL未満
  • HDLコレステロール目標値:40mg/dL以上

・中リスク

高血圧や喫煙などの冠動脈疾患の危険因子を複数持つ場合に中リスクと判断されます。

  • LDLコレステロール目標値:140mg/dL未満
  • Non-HDLコレステロール目標値:170mg/dL未満
  • トリグリセライド(中性脂肪)目標値:150mg/dL未満
  • HDLコレステロール目標値:40mg/dL以上

・低リスク

危険因子がない、または少ない場合は低リスクと判断されます。

  • LDLコレステロール目標値:160mg/dL未満
  • Non-HDLコレステロール目標値:190mg/dL未満
  • トリグリセライド(中性脂肪)目標値:150mg/dL未満
  • HDLコレステロール目標値:40mg/dL以上

一次予防では、生活習慣の改善が基本ですが、LDLコレステロールが180mg/dL以上の場合は薬物療法も検討が必要です。また、家族性高コレステロール血症では、動脈硬化予防のため通常より厳しい管理が必要で、早期の薬物療法が推奨されています。(参考9)

脂質異常症の改善方法

脂質異常症の治療では、薬物療法をする前に生活習慣の改善が重要です。主な生活習慣の改善方法として、次の5つのポイントが挙げられます。

1.禁煙

喫煙は動脈硬化のリスクを高めるため、喫煙・受動喫煙ともに控えましょう。

2.適正体重の維持

肥満の解消は中性脂肪値が低下し、HDLコレステロールが上昇します。

3.食事の改善

魚類や大豆製品、野菜、果物などを食事メニューに意識して取り入れましょう。過度の食塩摂取にも注意してください。

4.適度な運動

速歩やジョギングなどの有酸素運動を毎日30分以上行いましょう。(参考10)

5.過剰な飲酒を控える

アルコール量は1日20〜25g以下(日本酒1合以下、ビール500mL以下)にしましょう。(参考10)

こうした生活習慣の改善でも十分な効果が見られない場合に、医師と相談して薬物療法を開始します。

脂質異常症の改善方法については、「脂質異常症 改善」内部リンクもご覧ください。

脂質異常症の基礎知識

脂質異常症とは、血液中の脂質(主にコレステロールと中性脂肪)が基準値から外れた状態のことです。具体的には下記の3つのタイプがあります。(参考9)

  1. 高LDLコレステロール血症

LDLコレステロール≧140mg/dL

  1. 低HDLコレステロール血症

HDLコレステロール<40mg/dL

  1. 高トリグリセリド血症(高中性脂肪血症)

トリグリセリド≧150mg/dL(空腹時の採血)

なお3つのタイプは単独の場合もあれば、組み合わせて発症するケースもあります。

下記ページで、脂質異常症の基礎知識について詳しく解説しています。

「脂質異常症とは」内部リンク

脂質異常症の原因

脂質異常症の主な原因は下記の5つが挙げられます。

  1. 生活習慣

食生活の乱れ(脂肪や糖質の過剰摂取)、運動不足、喫煙、飲酒などがあります。

  1. 加齢

年齢とともに脂質代謝が変化します。

  1. 遺伝的要因

家族性高コレステロール血症などの遺伝性疾患によるものです。(参考11)

  1. 他の疾患

糖尿病、甲状腺機能低下症などがあります。

  1. 薬剤

ステロイド薬などの薬剤による副作用も脂質異常症の原因の一つです。

脂質異常症は複数の原因が組み合わさって発症することが多いです。特に日本人では、食生活の欧米化や運動不足といった生活習慣の変化が大きな影響を与えていると言われています

また、生活習慣が問題ない方でも遺伝的要因や他の病気が原因で発症することもあります。自分がどのタイプの脂質異常症なのかを理解し、それに合った対策を取ることが重要です。

脂質異常症の原因は「脂質異常症 原因」内部リンクもあわせてご覧ください。

脂質異常症の診断基準

日本動脈硬化学会による脂質異常症の診断基準(空腹時採血)は下記の通りです。(参考9)

  • 高LDLコレステロール血症

LDLコレステロール≧140mg/dL

  • 境界域高LDLコレステロール血症

LDLコレステロール 120〜139mg/dL

  • 低HDLコレステロール血症

HDLコレステロール<40mg/dL

  • 高トリグリセリド血症

トリグリセリド≧150mg/dL(参考9)

上記の数値に当てはまる場合や、脂質異常症の家族歴がある方、高血圧や糖尿病などの動脈硬化に関連する持病を持つ方は、早めに医師の診察を受けることをおすすめします。定期的な健康診断で異常を指摘された場合も、放置せずに医師に相談しましょう。

より詳しく知りたい方は「脂質異常症 診断基準」内部リンクをお読みください。

まとめ

脂質異常症の治療はまず生活習慣の改善から始め、効果が不十分な場合や高リスクなケースでは薬物療法を検討します。薬物療法では、LDLコレステロールの管理が特に重要で、スタチンが第一選択薬です。

定期的な血液検査で脂質値をチェックし、医師と相談しながら治療を続けることが大切です。薬の服用方法や副作用についても理解し、健康管理をしていきましょう。

【参考文献】

(参考1)日本医師会「脂質異常症治療 のエッセンス」

(参考2)日本医師会「超高齢社会におけるかかりつけ医のための適正処方の手引き. 4 脂質異常症」

(参考3)添付文書「リピトール (リピトール錠5mg 他)」

(参考4)添付文書「ゼチーア (ゼチーア錠10mg)」

(参考5)添付文書「レパーサ」

(参考6)添付文書「クロフィブラート (クロフィブラートカプセル250mg「ツルハラ」)」

(参考7)添付文書「 エパデール (エパデールカプセル300)」

(参考8)Eslick GD, Howe PR, Smith C, et al. Benefits of fish oil supplementation in hyperlipidemia: a systematic review and meta-analysis. Int J Cardiol 2009;136:4-16. 

(参考9)日本動脈硬化学会「動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版」

(参考10)国立循環器病研究センター「脂質異常症について」

(参考11)国立循環器病研究センター冠疾患科「脂質異常症」