肺高血圧症とは | 原因や症状、検査方法や治療方法を詳しく解説

肺高血圧症は「肺動脈の血圧が異常に高くなる病気」で、一般的な高血圧とは異なります。早期発見・治療により正しい治療を受けることで、症状の改善が見込める病気です。

そこでこの記事では、肺高血圧症の原因や症状といった基礎知識から検査方法、治療方法まで、詳しく解説していきます。

肺高血圧症はどんな病気？

肺高血圧症は、肺動脈の流れが悪くなって血圧（肺動脈圧）が上昇し、心臓と肺に機能障害をきたす循環器系疾患です。具体的には、平均肺動脈圧が25mmHg以上が診断基準となります。

通常、血液は心臓から肺動脈を通って肺に送られ、血液中の二酸化炭素と酸素を交換するガス交換が行われます。ガス交換を終え酸素が豊富になった血液は、肺静脈を通って心臓に戻り、全身に送られます。

しかし、肺高血圧症になると、この肺動脈の血圧が慢性的に高くなり、肺動脈に負担がかかってしまいます。特に、肺動脈の血管は全身に血液を送る血管（体循環）に比べて、血圧が低く、血管壁が薄いという特徴があるため、血圧の変化に弱いです。

肺高血圧症によって肺動脈の動脈硬化（血管壁が厚くなったり、硬くなったりする）と、血液の通り道が狭くなってしまい、肺動脈の血圧がさらに高くなってしまいます。

その結果、心臓に負担がかかり、右心室が大きくなって右心不全が起こる可能性があります。進行すると血液をうまく送り出せなくなり、死に至るケースもある病気です。

下記で、具体的な原因や症状を見ていきましょう。

肺高血圧症の原因

肺高血圧症の原因は様々で、主に次のようなものが挙げられます。

• 肺動脈性肺高血圧症（PAH）

原因不明の肺高血圧症

• 慢性血栓塞栓性肺高血圧症（CTEPH）
  肺動脈の血栓が原因で起こる肺高血圧症
  
• 左心疾患に伴う肺高血圧症
  心臓の左心室の機能低下や弁の異常が原因で起こる肺高血圧症
  
• 肺疾患に伴う肺高血圧症
  慢性閉塞性肺疾患（COPD）などの呼吸器疾患が原因で起こる肺高血圧症
  
• その他
  膠原病、先天性心疾患、薬剤性のものなど

肺高血圧症が疑われる場合は原因を詳しく精査し、それに合った治療法が選択されます。

肺高血圧症の症状

肺高血圧症の症状は以下のようなものがありますが、気付きにくいのが特徴です。

• 労作時の息切れ・息苦しさ
• 疲れやすさ
• 動悸
• 胸痛
• 失神
• むくみ
• 声のかすれ
• チアノーゼ（全身の酸素供給が低下し、皮膚や唇などの粘膜が青くなる症状）
• 血痰

上記の症状は、肺高血圧症によって心臓に負担がかかり、全身に十分な血液が送られなくなることで起こります。自覚症状が現れ始めた段階では病状が進行しているケースが一般的です。

肺高血圧症の分類

肺高血圧症の分類は、原因に応じて以下の5群に分けられます。

第1群：肺動脈性肺高血圧症（PAH）

・特発性

・遺伝性

・薬剤性など

第2群：左心性心疾患に伴う肺高血圧症

第3群：肺疾患や低酸素血症による肺高血圧症

第4群：慢性血栓塞栓性肺高血圧症（CTEPH）

第5群：原因不明の複合的要因による肺高血圧症

出典：Simonneau G,et al. J Am Coll Cardiol 2013. 62. D34–D41.

肺高血圧症の治療法は、これらの分類によっても異なる場合があるため、検査によって原因を精査することが重要です。

肺高血圧症の検査方法

肺高血圧症の診断や、原因を把握するには、下記の検査方法が必要になります。

• 問診・診察

医師が患者さんの症状や既往歴などを詳しく聞きます。

• 胸部X線検査
  画像撮影を通して肺や心臓の状態を調べます。

• 右心カテーテル検査
  心臓の右心室にカテーテルという細い管を入れて、肺動脈圧などを直接測定します。

• 心電図検査
  心臓の動き（電気的な活動）を調べます。

• 心臓超音波検査
  心臓の動きや弁の状態、肺動脈圧などをリアルタイムで調べます。

• 呼吸機能検査
  特定の機器を使用して呼吸をしてもらい、肺の機能を調べます。

• 血液検査
  血液中の酸素濃度や、肺高血圧症に関連する項目などを調べます。

• 肺換気血流シンチグラフィ
  専用の物質を血液に流し入れてからカメラで撮影し、肺動脈の血流や換気の状態を調べます。

• 肺血管造影
  血管から肺動脈にカテーテルを挿入し、造影剤を導入した後に画像を撮影して、血管の状態を調べます。

• CT検査

X線を用いた3次元撮影によって肺や心臓、肺動脈の血管の状態を詳しく調べます。

• MRI検査
  磁力と電波を使用した3次元撮影によって、肺や心臓、肺動脈の血管の状態を詳しく調べます。

医師は患者の症状や既往歴などから総合的に判断し、これらの検査を組み合わせて実施します。診断を受けて治療を開始した後も、定期的に検査する必要があります。

肺高血圧症の治療方法

肺高血圧症の治療は、原因・症状に合わせて行われます。治療の目的は肺動脈圧を下げて心臓の負担を軽減し、症状改善を目指すことです。

• 薬物療法

エンドセリン受容体拮抗薬やプロスタサイクリンなどの肺血管を拡張する薬剤や、血栓を予防する抗凝固剤などを使用します。

• 手術療法

肺動脈の血栓を取り除くバルーン肺動脈形成術（BPA）を行います。

• 在宅酸素療法

酸素吸入で症状や動脈血酸素飽和度の改善を目指します。

高血圧の基礎知識

高血圧とは、心臓から送り出された血液が血管壁を押す圧力が高い状態のことです。

血圧は心臓が収縮する時に高くなり（収縮期血圧）、心臓が拡張する時に低くなります（拡張期血圧）。一般的に診察室での測定で、収縮期血圧が140mmHg以上、または拡張期血圧が90mmHg以上の状態が高血圧とされています。

出典：日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン 2019」

高血圧は自覚症状がないまま進行する場合が多く、放置すると脳卒中や心臓病などの重大な病気につながるため「サイレントキラー」とも呼ばれる生活習慣病の一種です。高血圧症の治療には、生活習慣の改善と薬物療法が基本となります。

高血圧に関するより詳しい情報は以下の記事で解説していますので、併せてご覧ください。

「高血圧とは | 原因や症状、高血圧の治療方法や予防方法を詳しく解説」　はこちらから

まとめ

肺高血圧症は肺動脈の血圧が異常に高くなる病気で、早期発見・早期治療が重要な疾患です。特に、以下のポイントを押さえておきましょう。

• 肺高血圧症は初期段階の自覚症状が出にくい
• 早期発見が予後を大きく左右する
• 息切れなどの症状が続く場合や、リスク要因がある方などは早めの検査が推奨される
• 肺高血圧症に特化した血管拡張薬やバルーン肺動脈形成術といった治療法がある

症状が気になる方は、循環器内科や呼吸器内科の専門医に相談することをおすすめします。

【参考文献】

国立循環器病研究センター「肺高血圧症」

国立循環器病研究センター「肺高血圧症｜病気について」

巽浩一郎他「呼吸器疾患による肺高血圧症」（日本内科学会雑誌107巻2号）

日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン 2019」