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2025.03.28

生理前の便秘 | 対策方法や便秘治療に使われる薬を詳しく解説

生理前には便秘になりやすいと感じていませんか?

実はホルモンバランスの変化が腸の働きに影響しており、生理中は下痢になりやすい人もいる一方、生理前には腸の動きが鈍くなって便秘を引き起こしやすいという研究データがあります(参考1)。

本記事では、生理前の便秘の原因と対策、さらに便秘が慢性化した場合の治療法や使用される薬についてわかりやすく解説します。知識と対策を身につけて、生理前のつらい便秘症状に適切なアプローチを取れるようになりましょう。

生理前に便秘になる原因

生理周期に伴うホルモン変動によって、生理前は便秘になりやすくなります。排卵後から月経前にかけて分泌が増える黄体ホルモン(プロゲステロン)には、子宮の働きを落ち着かせる作用がありますが、その影響で腸のぜん動運動も抑制されてしまいます。腸の動きが鈍くなると便がスムーズに送り出されず、大腸内に長く留まった便から水分が過剰に吸収されるため、硬くコロコロとした便になりやすいのです。

このようにホルモンバランスの変化が便秘の主な原因ですが、加えて食欲の変化や水分バランスの乱れ、ストレスも影響します。生理前は食欲が増し甘いものや脂っこいものを摂りがちになる人もいますし、ホルモンの作用で体が水分をため込みやすくむくみがちです(参考2)。その結果、食物繊維や水分の摂取が不足すると便が硬くなってしまいます。

また、生理前は情緒不安定になったり忙しさやPMSでストレスが増える時期でもあります。ストレスや生活リズムの乱れは、腸内環境ひいては便秘を悪化させる要因となるため、生理前は普段以上にお腹の調子が崩れやすいと言えるでしょう。

便秘の原因については、以下の記事でも詳しくご紹介しています。
「便秘の原因 | 並行して起こりうる症状や改善方法を詳しく解説」の記事はこちら

生理後も便秘が続く可能性は?

通常、生理が始まると黄体ホルモンの低下に伴い腸の動きも正常化していき、便秘傾向は次第に改善していくことも少なくありません。しかし生理後も便意が遠い場合は、便秘が慢性化している可能性があります。生理周期による一時的な便秘ではなく、日頃の生活習慣や腸内環境に起因する慢性的な便秘症の状態です。

思い当たる原因がある場合は食生活や生活リズムを見直し、それでも改善しない場合は消化器内科で相談してみましょう。慢性便秘症は放置すると悪化することもあるため、早めに対策・治療することが大切です。

生理前の便秘の対策方法

生理前の便秘を和らげるために、以下のような対策を日常生活に取り入れてみましょう。

食物繊維の摂取

腸の調子を整えるには食物繊維の十分な摂取が欠かせません。野菜や果物、海藻、豆類、全粒穀物などを積極的に食事に取り入れましょう。食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維(果物、海藻、こんにゃく等)と水に溶けない不溶性食物繊維(野菜、豆類、穀類等)があり、両方をバランスよく摂ることで便を適度に柔らかくし、かさを増して排便を促します。

適度な運動

運動不足も便秘の一因です。軽い有酸素運動やストレッチを日常に取り入れて腸の蠕動運動を促しましょう。例えば通勤・通学時に一駅分多く歩いたり、寝る前に簡単なストレッチや腹部のマッサージを行うだけでも効果が期待できます。体を動かすことで自律神経のバランスが整い、腸の働きも改善しやすくなります。

ストレスケア

生理前はホルモンの影響で心身ともに不調が出やすく、ストレスも溜まりがちです。ストレスは腸の動きを乱す原因となるため、リラックスできる時間を作ることも大切です。暖好きな音楽やアロマでリラックスする、十分な睡眠をとるなどして自律神経を整えましょう。心にゆとりが生まれると腸の緊張も和らぎ、排便が促されやすくなります。

以上のような生活習慣の改善によって、生理前の便秘は予防・緩和することが期待できます。それでも症状がつらい場合は、次に紹介する薬や医療の力を借りることも検討しましょう。

便秘の基礎知識

便秘治療に使われる薬

慢性的な便秘症や、市販薬を用いる対処法についても基礎知識を押さえておきましょう。便秘薬(下剤)は大きく以下の2つに分類されます。

  • 刺激系下剤
  • 被刺激性下剤

刺激性下剤はお腹の中を直接刺激して腸の運動を活発にし、さらに腸粘膜からの水分分泌を促すことで排便を促進します。「何日も便通がない」といった一時的な便秘の解消に向いていますが、連用すると効果が弱くなる(耐性がつく)ものもあり、乱用はおすすめできません(参考3)。代表的な成分にはセンナ由来のセンノシドや、大腸を刺激するビサコジルなどがあります。

一方、非刺激性下剤には便を柔らかくするタイプの薬が含まれます。例えば浸透圧性下剤の酸化マグネシウム(MgO)は腸管内に水分を引き込む作用で便に水分をたっぷり含ませ、便のかさを増やして自然な排便を促します(参考4)。酸化マグネシウムは作用がマイルドで習慣性も少ないことから、日本では処方される便秘薬の第一選択肢としても広く使われています。

また近年は新しい作用機序の便秘治療薬も登場しています。

  • ルビプロストン
    ルビプロストン(Clチャネルアクチベーター)は小腸上皮に作用して腸管内への塩素イオン分泌を促進し、水分を増やして便を軟らかくする効果があるとされる薬です(参考5)。
  • リナクロチド
    リナクロチド(グアニル酸シクラーゼC受容体作動薬)は腸管のGC-C受容体に作用し、細胞内cGMPを増加させることで腸液の分泌と腸管運動を活発化させるとされる薬です(参考6)。

ルビプロストンとリナクロチドはいずれも科学的根拠に基づき有効性・安全性が示された薬剤(参考7)であり、それぞれ患者さんの状態に応じて使い分けられています。便秘が慢性的に続く場合、自己判断で市販の便秘薬を乱用するのは避け、医師に相談して適切な薬を処方してもらうようにしましょう。

便秘を放置するとどうなる?

便秘をそのままにしておくと、思わぬ体調不良に繋がることがあります。代表的な症状としては、腹部の張りや腹痛、食欲不振、吐き気、イライラ、頭痛、腰痛などが挙げられるほか、排便時に強くいきむことで痔(痔核)を発症したり、肛門裂傷(切れ痔)を起こすリスクも高まります。

さらに注意すべきなのは、重度の便秘が進行すると腸閉塞(イレウス)のような状態になる可能性です。糞便塞栓(糞詰まり)が起これば、腸を物理的に塞いでしまい激しい腹痛や嘔吐を伴う腸閉塞を引き起こすことがあります(参考8)。

腸閉塞は生命に関わる緊急事態であり、多くの場合入院治療が必要です。たかが便秘と侮らず、長期間便通がない場合や腹痛・嘔吐など深刻な症状を伴う場合は早めに医療機関を受診しましょう。

まとめ

生理前の便秘は、女性ホルモン(特に黄体ホルモン)の作用による腸の動きの低下や、PMSに伴う食欲・水分バランスの変化、ストレスなどホルモンと生活習慣の影響が大きい症状です。まずは食物繊維の摂取や適度な運動、十分な水分補給など基本的な対策を心がけることで、改善につながるケースも決して少なくありません。

また、便秘が慢性的に続く場合には医療機関で相談し、必要に応じて酸化マグネシウムやルビプロストン等の適切な薬物療法を受けることで症状が改善する可能性があります。生理前のつらい便秘も、正しい知識と対処法でしっかりケアしていきましょう。

(参考1)若菜真実 著 · 2016『月経周期と排便習慣との関係性』
(参考2)月経前症候群(premenstrual syndrome : PMS) – 公益社団法人 日本産科婦人科学会
(参考3)三代剛 著 · 2019『VI.慢性便秘の治療―大腸刺激性下剤の種類とその使い方―』
(参考4)Magnesium Oxide in Constipation – PMC
(参考5)安部達也 著 · 2016『慢性便秘症に対するルビプロストンの効果と副作用の検討』
(参考6)毛戸祥博 著 · 2019『便秘型過敏性腸症候群及び慢性便秘症に対する新規作用機序を有する治療薬 リナクロチド(リンゼス<sup>®</sup>錠0.25 mg)の薬理学的特徴並びに臨床試験成績』
(参考7)Lubiprostone in constipation: clinical evidence and place in therapy – PMC
(参考8)小笠原尚高著 · 2023『慢性便秘症』現代医学71巻1号